琵琶の長寿
池本浩久さんは25歳で実家の酒蔵に帰って来て杜氏の下でお酒を造ること5年。
30歳の時に蔵元であった父が亡くなり、同じ年に長年勤めてきた杜氏も高齢で引退。
30歳にして蔵元兼杜氏を拝命した。
蔵を継ぐことになった当時、池本さんはこう考えました。
「造れば売れる時代」ではないので大量生産は向かない。
企業として大規模に造るよりも 家業のような小規模の方が、「量より質」のお酒造りには向いている。だから会社はスリムにしたい。
小さい仕込みでも その分本数を多く仕込めば、大きな仕込みをやった時と同じ量が造れる。たくさん仕込むには時間がかかるが、そもそも酒造設備は冬季以外は休眠状態。その時間を有効に使って四季醸造で、小さい仕込み×多本数で仕込めば、一人でも今までと変わらない量のお酒を造っていける。こうした結果、仕込みはほぼ一人で行えるようになりました。大阪の⼤学で学んだのは経済学でしたが、その後、東京農⼤に1年間在学し、醸造学科の研究室ではバケツを仕込みタンク代りにして小規模でお酒を仕込んでいたことがある池本さん。小規模仕込みなら誰の手を借りる事もなく一人で出来た、その頃の経験が⽀えになり 「⼀⼈で造れる」 と確信できたのだそうです。
さらに四季醸造には、1年間売っていく分のお酒を冬季だけに集中して造る従来のやり方より、売れ行きに応じて少量ずつ 通年でお酒を造り続けるやり方の方が、お酒が余ることもなく、⽣産調整がしやすく、またオンシーズンとオフシーズンの、繁忙期と閑散期の温度差が中和できて作業効率が良くなるというメリットもありました。
「正直、蔵を継ぐことになった当初は、前任の杜⽒による池本酒造伝統の味に少しでも近づけようとしてジタバタしました」と池本さん。
「でもそのうち私だから造る、私にしか造れないお酒であればいいと思うようになったんです」と、爽やかに⾔い切ることができるまでになりました。
池本酒造の「琵琶の⻑寿」ブランドには、多彩なバリエーションがあります。
新酒が次々と登場するのはもちろんのこと、先代の仕込みから30年以上が経過した熟成⽇本酒「昭和の⼤吟醸」も。
そうしたなかで最も⾃信作といえるのが「純⽶吟醸(⽣)蔵⼈」です。
「琵琶の⻑寿」が得意とする味わいの⼤切なポイントといえば「白ワインに似た酸味」。この銘柄ではそれを余すことなく実感できます。
純⽶吟醸ですから、お⽶の旨味がしっかりと引き出されているのはもちろんのこと、ワインに似た酸味が、後味を「キリッ!」と切り上げることから、キレのよさが際⽴つ、独特な味わいに仕上がっています。
酸味を⾻格としたフルボディーな味わいということは、お酒だけで楽しみたいときも、⼗分に主役が務まります。
また酸味があるので唾液の分泌を誘発し、お料理の味に染まりゆく味覚をニュートラルに戻す、そんな素晴らしい脇役にもなりえます。
お酒だけ飲みたいときは、主役に。
⾷事と合わせたいときは、脇役に。
この旨味と酸味によるフレッシュな味わいは、ひとつ⼀つの⼯程を丁寧に、⼤切にする蔵元が成し遂げた⼀つの到達点なのではないでしょうか。
⽇本酒をあまり飲んだ事のない⼈も「⽇本酒ってこんなにおいしいんだ」 と、その味わいに驚きを感じることでしょう。